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ミュージカル『レディ・ベス』②フェリペの話

前回の記事を見返したら自分のテンションがあまりにも高くて引きました。こんにちは。でも今日もフェリペの話をします。

※正直この時代の歴史はあまり勉強できてません。脚本から読み取れる範囲の考察…というよりは情報の整理という感じ。

 

 

前提:それぞれの国と信仰

レディ・ベスはイギリスの女王であるメアリーと、その妹であるベスを取り巻く人々を描いた作品です。メアリーはスペインの王子であるフェリペと結婚をします。この話は、イギリスとスペインという2国の話であると同時にキリスト教の宗派の話でもあります。

イギリスの中ではメアリーがカトリック、ベスがプロテスタントという立ち位置です。そしてそもそもの発端は、2人の父である前王ヘンリー8世カトリックからプロテスタントに改宗したこと。ヘンリー8世からメアリーにかけての時代で、イギリス国教の宗派はカトリックプロテスタントカトリックという変遷をたどります。

 一方スペインは、

ベスはプロテスタント スペインの敵です

とあるようにカトリックの国。フェリペとメアリーの政略結婚はルナールがいう(なんて言ってたか忘れたけど3つくらい国名を挙げてた)外交的政略結婚であると同時に、カトリックの結婚という宗教上の政略結婚でもあります。

この辺の双方の思惑は私の知識では断定できないけど、メアリーは母がスペイン王家の血を引いていたこととカトリックの復活、スペイン側は「イギリスの王になれる」かな。

 

 

フェリペとルナールとスペイン

そんな訳でイギリスの中ではメアリー(カトリック)とベス(プロテスタント)という構図ができています。スペインはカトリックだからメアリー側につくのでは。

ところが、どちらもスペインの人間であるはずのフェリペとルナールの態度はまた異なっています。

フェリペ殿下は もしベスを処刑したら反乱が起きると懸念しておられます

(中略)

あの女は消せ 王冠守るために

謀反の証拠なんていらない 生きてるだけで危険なのだ

ベスを消したいルナールと、ベスを助けようとするフェリペ。

ルナールはスペイン大使なので、フェリペの臣下ではなくフェリペの父の臣下。いうなれば、ルナールの行動は(多分)フェリペの父であるスペイン王の意向そのもの。そしてその父の意に沿わない行動を取るのがフェリペ。

「父の命令逆らえない」の歌詞や、初演のプレビューにだけあった「これでは父の言いなりだ」という台詞。フェリペは父のあやつり人形になりたくないんですよね。そして、そんなフェリペを上手く扱って父の思惑通りに動かすのがルナールの役目でもある。

でもフェリペはただ親に反発してベスを助けようとているわけではなくて、「自分は父と違うやり方でスペインの利益を生み出せる」という自負を持った大変なクールヘッドなんだと思うんです。父の命令にギリギリ反しない範囲で自分の力を最大限発揮して、父の一枚上を行きたいという野心。だから結婚はするけれどただで言いなりにはならない。父の、ルナールの思うままにはならない。

個人的な感想として、初演ほどフェリペにワガママな印象がないなと思うんですよね。シンプルになった分、フェリペの意志みたいなものがよりクリアになった気がする。あのなに考えてるのか読めない感じも好きだけど!だって初演、メアリーがちょっと上手を向いたら下手側に並んでる女にちょっかい出してルナールにたしなめられてたんですよ。ねえ今なんのシーンだと思う?結婚式!笑

 

 

フェリペとメアリーと寛容の精神

フェリペのいう「手遅れにならないうちに」は、「民衆とスペイン(から来たイギリスの王である自分)の間に決定的な溝を生まないうちに」なんだろうと思います。

フェリペはただメアリーと結婚したくないんじゃなくて(いやまぁ確かに結婚したくないんだけど)、メアリーと結婚することでスペインにもたらされるデメリットを冷静に考えてる。だからイギリス国民がメアリーについてどう思っているか聞くし、ベスを尊重する姿勢を見せることで民を自分につけることまで考えてるんじゃないかな。

フェリペは抑圧じゃなく懐柔を狙ってると思うんですよね。「寛容の精神などいらない」メアリーと「寛容の精神」を上手く利用しようとするフェリペ。でもそれは本当に寛容なのではなくて、全て自分のためであるところがミソ

それに処刑派ってとりあえずベスを消したすぎで、その後どうなるかという点を軽視してるように思うんですよね。あまりにも強硬策が過ぎるし、ベスを処刑したら間違いなく反乱が起きる。そんな時ちょうどベスと対面して、自分の権力という決定打で阻止する。別に実際にはベスが美人だからでもロビンが知り合いだからでもないんだけど、折角だからそういうポーズを取って恩を売ることで、更に自分の立場を有利にしようとしてるんじゃないかな。(まあその恩は後にアルマダの海戦で仇で返されるんだけど)

今回増えた台詞を考えると、フェリペはグラスの毒に気付いてたわけじゃないのかな?って思ってます。あれすらも演技…うーんそこまで行くと流石に深読みが過ぎるかな……。毒殺まで見越していたんじゃないか、っていうあの可能性を残した状態好きだったなあ。

 

 

「スペインのフェリペ」であって「カトリックのフェリペ」ではないという仮説

そう考えると、この作品におけるフェリペは「カトリックvsプロテスタント」ではなく「スペインvsイギリス」を考えてるんじゃないかと思うんです。ほかの人の観点には少なからず宗教が含まれるけど、フェリペは完全に国の単位で考えている。だからイギリスという国がメアリーのものでもベスのものでも構わないし、カトリックでもプロテスタントでも構わない。結婚相手がどちらでも構わない。

再演で追加された「あの女と結婚すれば良かった」という台詞は、初演でいうところの「結婚相手間違えたようだ」にあたるわけですが、ただメアリー死にそうだしベスの方が美人だしってだけじゃないと思うんですよね。特に今回はまだメアリーの病気発覚してないし。イギリスを自分の手中に収めるのに誰との結婚が最良だったのかという点に絞っても、やはりメアリーではなくベスだった。

ベスが自分に頭を下げた時も「自分のもの」になったと思ってあんな満面の笑みを浮かべてるんだと思います。自分のものっていうのはなにも恋愛対象とかじゃなくて、王である自分の支配下という意味。あの抱擁は王の下賜であって、別にベスが美人だからってだけじゃない(全くないとは言わない)。でもベスはそれを軽くスルーしてフェリペの下にはつかなかった。だからフェリペは「あの女と結婚すれば(こんな回りくどいことせずとも自分のものになって)よかった」と言う。そういうことなんじゃないかな。残念、ベスはさらに上を行くクールヘッドだった。

実際、もし仮に父の意向を無視してベスと結婚できていれば、スペインの無敵艦隊は沈まなかったかもしれない。そう考えると、改めてフェリペは本当にクールヘッドだなと思います。

 

 

天才なの、スペインの誇り。

ここまで考えてきて改めてこのフレーズを思い出したら「ほんとにな」という気持ちと「本気か?」という気持ちがせめぎあってます。確かにフェリペはスペインの王位継承者として天才かもしれない。でもスペイン=カトリックと考えると、カトリック的にどうなの?良くなくない?「カトリックのメアリー絶対処女」なんでしょ?

史実のフェリペは熱心なカトリック信者だったらしいので、ここはこのベスという作品で史実と大きく違うところなんだろうなと思います。カトリックの教えに反しているのも父への反抗なのかもしれない。父から見たこの作品のフェリペはどんな息子なんだろう。

でも本当にクールヘッドな人だと思います。ただの女好きのイケメンじゃない。カトリックの誇りではなくてもスペインの誇りになれてしまうくらい、ものすごい天才なのかもしれないなあ。